金曜の夜に風邪を引く

決まりきらない想像の旅

孤独に還るということ

ストーカーが報われる現代の話を、ずっと読みたいと思っていた。知らない人に恋焦がれるなんて源氏物語の昔からある話なのに、石川ひとみの「まちぶせ」なんて一途な恋の物語の歌なのに、現代では全て「ストーカー」の名の下に断罪される。それだけ、個人の権利が細かく守られるようになって来たのは喜ばしい事なんだろうけれど、それを覆して尚説得力のある物語を読みたいと思っていた。

その期待は徹底的に裏切られた。一点を除いて、清々しいまでに主人公は報われない。最後は焦がれた人に黒と断定され、元あった孤独へと還って行く。そこだけを見たら、とても後味の悪い話だ。

でも、この主人公を、ストーカーだと断罪してしまった時点で、この物語が持つ、人の孤独や様々の負に対する辛辣なまでの誠実な描写を、理解出来なくなってしまうだろう。主人公が作中で口にしたような、グラデーションを持つ人の感情が、全て黒に塗り潰される。

望んでいたかは別にして、全てと引き換えに得た「書く」と言う呼吸の仕方を思い出せた恋、想いを否定された事によって、「書く」と言う孤独に立ち戻れたという事実、それがこの物語に用意された救いだった。そしてまた彼女は、再び見つけた孤独と共に生きて行くのだろう。でも多分、それを取り戻す前よりは、彼女は孤独ではない。